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現役引退を決断した昨年末。現役最後のレースをこの宮古島大会に決め、この大会に全てを懸け、完全燃焼して終わりたいという思いでこの冬はトレーニングを積んできました。
先月末に出場したアイアンマン70.3台湾大会後に風邪を引いてしまいましたが、逆にそこで今までの疲れが取れたのか、完治してからは尻上がりに調子が上がってきました。
気力体力ともに絶好調の状態でレースウィークを迎え、大会4日前に現地入り。大会期間中の開会式や記者会見などの公式行事もこれが最後なんだということを一つ一つ噛み締めながら楽しむことができ、レース当日を迎えました。

いよいよレース当日。朝起きてすぐに外を確認すると、風もなく絶好のコンディションでした。
最終選手登録、バイクのセッティングを済ませた後は、ウォーミングアップでランニングを行い、ペースを上げて身体を起こしました。そして一旦部屋に戻り、着替えて今度はスタート会場へ向かい、スイムのウォーミングアップを行いました。アップを終えてからスタートを待つまでの間、ラストレース頑張ってねと応援の方々や選手達から声をかけていただきとても嬉しかったです。

7時に1552名全選手が一斉にスタート。昨年インコースからスタートして、スタート直後からバトルに巻き込まれて大苦戦をしてしまったので、今年はアウトコース寄りを選んでスタートしました。
今年は潮の流れが例年と反対となり、スタート〜第1ブイ〜第2ブイまでの1700メートル地点までが向かい潮となりました。そして波のうねりもあり、海水を多く飲んでしまいました。自分自身の調子は良く、3キロのスイムがあっという間に感じたのですが、上陸してみてタイムを見ると予想以上に時間がかかってしまったことが分かりました。今大会一番のライバルである、過去2回優勝している鷲津(旧姓:今泉)選手との差は6分30秒。レース前の予想では鷲津選手とだいたい5分くらいの差でスイムアップするだろうと思っていたので、ほぼ想定通りの展開になりました。急いでトランジッションを済ませてバイクパートへ移りました。

毎年この大会に挑むにあたってレースプランを考えるのですが、今回はただ一つ。今ある力を出し切ることだけを目指しました。バイク序盤から前を走っている選手を一人一人抜き、伊良部島を回って宮古島に戻って来たところの40キロ地点で鷲津選手との差を1分30秒詰め5分差で通過、池間島へ向かいました。
調子もとても良く、今日は誰にも抜かれないと思えるくらい気持ちも充実していました。しかし池間島を回り、次のポイントである約100キロ地点の東平安名崎では、鷲津選手との差が再び広がっていて6分差の3位で通過。私の調子も良いのに逆に差が広がっていることに焦りを感じましたが、気持ちを切り替え、とにかくベストを尽くすことに集中し、アップダウンの連続が始まる七又海岸へ向かいました。
このコースは、105キロ地点の七又海岸のアップダウン〜2周目〜157キロのフィニッシュまでの約50キロをいかにペースダウンしないで走りきることができるかが大きなポイントになります。2003年に初出場したときから今日まで、レースや合宿を含めて島を何百周したか分かりません。ここのコースを熟知しているので、自信を持って攻めました。120キロ手前で期待の若手、一本松選手を抜き2位にアップ。その後、沿道の応援の方々から鷲津選手との差が一気に縮まってきていると聞き、バイクフィニッシュまでに1秒でも差を縮めたいという思いで攻めました。100キロ地点で6分差あった差をバイクフィニッシュ時で1分弱まで縮めることに成功、トランジットエリアではランに向かう鷲津選手を目撃できました。バイクで鷲津選手に追いつきたいという、ほぼ予想通りの展開になり最後のランへ移りました。

心理的にはすぐに追いつきたいところでしたが、42キロの長丁場なので、まずは自分のペースを淡々と刻んでいくことにしました。練習でやってきた通りの1キロ4分35〜40秒ペースで刻み、とりあえず21キロの折り返しポイントまではこのペースで行けるよう走りました。鷲津選手との差は開いたり、縮んだりを繰り返して21キロの折り返しへ。すれ違うと想像以上に近い位置まで接近できていたので、気持ちも更に高まり、後半の21キロに入りました。
復路に入ると鷲津選手に付いている先導車がはっきりと見えてきました。2007年大会も同じような展開になり、その時は先行している鷲津選手に25キロ地点の急こう配の上り坂で追いつき、残り5キロまで並走する展開になりました。今回も同じ展開にしたいと思っていましたが、25キロ地点の急坂を上り終えたところで私の脚が動かなくなり失速。差も徐々に広がってしまい、完全に勝負は決まってしまいました。心が折れそうになりましたが、最後まで諦めずに力を出し切ることだけを考えて、集中力を途切らせることなく走ることができました。
ラスト3キロは本当に苦しく、長い長い道のりでした。レース前は最後だから感動してしっかり走れるかな!?と思っていましたが、本当に余裕がなく、余韻に浸る瞬間もなく、早く競技場に戻りたい一心で走っていました。
フィニッシュ地点の競技場に戻ってくると、これまでお世話になった方々や沢山の仲間達が待ってくれていました。そこでようやく笑顔になることができ、フィニッシュ。フィニッシュテープを切ると、優勝した鷲津選手が出迎えてくれました。彼女とはお互い20代の頃から切磋琢磨してきたライバルであり、親友です。今回9年振りの復帰レースとなった彼女と私の引退レースが重なったことも何かの運命だと感じます。レース中彼女の背中を追い続け、競い合えたことは昔を思い出し、苦しかったですがワクワクする楽しさもありました。最後まで力を出し切れたのも彼女の存在があったからこそです。優勝には手が届きませんでしたが、この結果に悔いはありません。

大学を卒業し、本格的にロングディスタンストライアスロンに取り組み始めました。15年の競技生活、プロとしては13年間活動することができました。
始めた頃はなかなか先が見えず苦労の連続でしたが、2006年の宮古島大会で優勝することができて努力は報われるということを実感しました。そこからは私が日本のロングトライアスロン界を引っ張っていくという強い気持ちを持って海外のアイアンマンレースに参戦し、アイアンマンワールドチャンピオンシップを1年の最大目標として活動しました。自己最高位は2009年の18位で、目標であったトップ10入りを果たすことはできませんでしたが、世界のトップ選手達が集まるハワイの地で毎年人生をかけて戦えたことは最高の喜びでもありました。
30代に入ると、蓄積疲労が原因で思うような練習、レースができなくなる時期がありました。その長いトンネルを抜け出すまでの間は色々な葛藤や苦しみを味わいましたが、そこから逃げずに競技に取り組めたことで今までより強い自分に生まれ変わることができました。
最後の1、2年間は納得のいく結果が残せなくなってきたことで悩み苦しみました。プロとして活動している以上、納得のいく結果を残せなくなった時はけじめをつけて引退すると決めていたので、今大会を最後に現役を引退することを決断いたしました。

長かったようであっという間の競技生活は、沢山の方々に支えられ応援していただくことができました。
振り返ってみると良かったことよりも圧倒的に苦しかったことの方が多かったと思います。そんな時に前向きになれたのも、いつも励まして応援してくださった皆さんの存在があったからこそです。とても一人の力だけではここまで競技を続けることができませんでした。感謝の言葉しか思い浮かびません。第2の人生もトライアスロンで学んできたことを忘れずに、常にチャレンジ精神をもって頑張ります。
15年間、最高の競技生活を送ることができました。
長い間、応援をサポートを本当にありがとうございました。

2017年4月28日 株式会社ライムメンバーズ 酒井絵美

リザルト スイム バイク ラン 総合タイム
1 鷲津奈緒美 (神奈川県) 49:21 4:43:31 3:31:16 9:04:08
2 酒井絵美 (群馬県) 56:37 4:37:10 3:39:48 9:13:35
3 一本松静香 (東京都) 46:47 4:51:53 3:56:11 9:34:51
4 西岡真紀 (和歌山県) 47:51 5:20:40 3:40:06 9:48:37
5 竹中久美子 (東京都) 59:06 5:08:03 3:45:15 9:52:24
6 Hwang Jiho (韓国) 55:00 5:10:33 3:49:30 9:55:03

    使用機材

  • バイク:SCOTT PLASMA5
  • コンポーネント:SHIMANO DURA-ACE R9100 Di2
  • ペダル:SHIMANO PD-9100
  • ホイール:SHIMANO WH-9100 フロントC60チューブラー、リアPROディスクチューブラー
  • バイクシューズ:SHIMANO RC9
  • アクセサリー : SHIMANO PRO トライアスロンサドルマウントケージ
  • ヘルメット:KABUTO AERO-R1
  • ボトルケージ:KABUTO PC-3
  • バイクボトル: PowerBar
  • ウエットスーツ: メイストーム
  • 補給食:PowerBar PowerGel、TOP SPEED
  • ドリンク:Challenger
  • 時計: GARMIN ForAthlete 920XTJ ForAthlete 735XTJ
  • サングラス:Smith Optics PIVLOCK ARENA
  • ランシューズ:SAUCONY FREEDOM ISO
  • ランソックス: COMPRESPORT レーシングソックスRUN HI
  • ヘッドバンド: COMPRESPORT ON/OFFヘッドバンド
  • スイムゴーグル: TYR NEST PRO
  • サプリメント:Kentai BCAAシトルリン、スポーツドリンク
  • メカニックサポート:SHIMANO、メイストーム